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なぜ規制が変わりゆくサイバーセキュリティの阻害要因にならないのか
しばらく前、セキュリティリサーチャー同士で「そのうちサイバーセキュリティ専門家の数より弁護士の数のほうが多くなるだろう」という話をしたことがあります。そのときの議題は「商用のリモート管理ソフトウェアと悪意のあるバックドアソフトウェアの定義について」でした。さいわい、この予言はまだ現実のものにはなっていませんが、規制が厳しさを増す社会で、大量の新しい要件がサイバーセキュリティやデジタル活動全般に影響を与えるようにはなりました。たとえば、GDPR(EU一般データ保護規則)、NIS指令(NISD)、EU決済サービス指令(PSD2)などがそうした規制の例としてあげられるでしょう。これらの規制はすべてEUのものですが、米国でも状況は同じで、CCPA(カリフォルニア州が消費者プライバシー法)をはじめとする規制が導入されています。こうした規制はほかにもたくさんあり、今後さらに世界中で増えていく見込みです。
これらすべての規制には通底するテーマがあります。それは「高度にデジタル化する社会をより安全にしていくこと」。これが弊社の掲げる理念であるところの「サイバー攻撃の成功を阻止することでデジタル時代の生活様式を保護する」というビジョンとほとんど同じ意味を持つことを私は誇らしく感じています。というのも、この理念が実現すれば、より安心・安全な毎日が実現するからです。
ところが私には懸念もあります。それは、セキュリティ専門家たちが「やるべきことができていない」理由として、こうした新しい規制化の動きを挙げているのを耳にすることです。たとえば、GDPR上の懸念があるとしてセキュリティ専門家が機微情報をクラウドに置こうとしないのがそのあらわれでしょう。ちなみにこの解釈は実際には誤りで、GDPRの前文(49)は次のように述べています。これをより易しい言葉で説明するなら「サイバーセキュリティは個人データ保護に役立つために存在するものであり、企業がその用途と比例性を維持する限りにおいて個人情報をセキュリティの目的で処理することを合法と認める」という意味になります。
ネットワーク及び情報の安全性を確保する目的のために厳密に必要性で[が]あり、かつ、比例的な範囲内で行われる個人データの取扱い、例えば、保存される個人データ若しくは送信される個人データの可用性、真正性、完全性及び機密性を阻害し、また、公的機関、コンピュータ緊急対応チーム(CERT)、コンピュータセキュリティインシデント対応チーム(CSIRT)、電子通信ネットワークのプロバイダ及び電子通信サービスのプロバイダ、並びに、セキュリティ技術及びセキュリティサービスの提供者によって、そのネットワーク及びシステムを介して提供され又はアクセス可能なものとされている関連サービスの安全性を阻害する事故、又は、違法な行為若しくは悪意ある行為に対して、所与の機密性のレベルにおいて対抗するためのネットワークシステム又は情報システムの能力を確保することは、関係するデータ管理者の正当な利益を構成する。これには、例えば、電子通信ネットワークへの無権限アクセス及び悪意あるコード配布を防止すること、並びに、「サービス拒否」攻撃やコンピュータ及び電子通信システムの破壊行為を阻止することが含まれうる[1]。これには、たとえば、電気通信ネットワークへの不正アクセスや、悪意のあるコードの配信防止、「DoS(サービス拒否)」攻撃やコンピュータや電気通信システムへの損害防止などが含まれます。
私は弁護士ではありませんし、私のアドバイスは法的助言ではありませんが、クラウド環境であれそれ以外の環境であれ、この前文が「セキュリティ機能を使用して今日より優れたサイバーセキュリティを明日実現すべきではない」とGDPRが推奨しているようには読めません。
通常、サイバーセキュリティ上の規制は、サイバーセキュリティ機能の向上と一貫性の強化に重点が置かれていますが、後者は今日の非常に動的な環境にあっては達成のむずかしい課題です。だからこそ多くの新しい法律が「セキュリティ・バイ・デザイン」、「デフォルトでのセキュリティ対策」、「最先端技術の考慮」といった非常に抽象的な用語を使用しているのです。というのも、立法が技術革新と同じペースで進むことは単純にいってありえないからです。さいわい、規制当局もその点を理解しています。
であればこそ、私の掲げる課題はシンプルです。新しいことや違うことをしない理由として規制を挙げることは簡単です。ですが、それはこれら法律の本来の目的ではありません。新しい法律は私たち自身の能力の限界を引き上げるように促すことで、私たちが今日を昨日より安全にするするよう促すものです。新しい法律は、皆さんにそのための力を与えてくれています。この点にこそ私たちは着目すべきでしょう。私たちに何ができないかを憶測で語ったり風説に流されるようではいけません。そうでなく、事実を確認し、自社法務部門からのコンサルティングを受けることで、新しい規制を活用して独自の能力の限界を引き上げるようにしましょう。変化の波はサイバーセキュリティのペースで進んでいきます。そして、イノベーションを通して毎日をより安全にするため、どのように自身に与えられた役割を果たすかについて、私たちは毎日自分自身に挑戦し続けなければならないのです。
[1] https://www.ppc.go.jp/files/pdf/gdpr-preface-ja.pdf より前文(49)引用。[ ] 内は原文内の誤字を編集上修正したものです。